令和6年(2024年)10月20日(日) / 日医ニュース
遠隔ICU
横浜市立大学附属病院集中治療部部長・准教授/東京科学大学オープンイノベーションセンター 起業支援チーム特任准教授 高木俊介
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勤務医のページ
働き方改革と「遠隔ICU」
2024年4月から医師の働き方改革が本格的に始まった。
急性期医療現場、特に集中治療室(以下、ICU)のような常時重症患者がいる部署では、勤務体制の見直しが急務となっている。
ICUのシフトを回すには7〜8名のスタッフが必要だが、適切な休息時間を確保するには、2交代制か、日中から夜勤まで連続勤務し翌朝帰宅する体制が求められる。しかし、現状の医師数では、このような人員配置の実現は困難を極めている。
そこで厚生労働省は、医師の働き方改革を踏まえ、ICUでも宿日直体制を許可することとした。
宿日直許可は、通常業務と異なる軽度または短時間の業務で、夜間に十分な睡眠が取れることが条件だ。ただし、ICUのような重症患者がいるような施設においては、宿日直許可を取得しても夜間に頻繁な相談が予想される。
この状況を考慮し、遠隔医療を用いて宿日直許可を取得した施設をサポートする策として、「遠隔ICU」に注目が集まっている。
平成30年には「遠隔ICU」に関する調査研究を実施し、そのニーズ、必要なシステム要件、法的注意点などを整理した。令和元年度からは厚労省が「遠隔ICU体制整備促進事業」の補助金を設け、「遠隔ICU」の実証とエビデンス収集を促進。横浜市立大学や昭和大学で「遠隔ICU」の実証が始まり、多様なエビデンスが蓄積されつつある。
患者の予後改善のエビデンスに加えて、日中の業務以外の夜間帯も、オンコール体制で現場からの相談を担当していた医師へのコール数が減少したといったエビデンスを考慮し、令和6年度の診療報酬改定においては、遠隔ICUモニタリングによる特定集中治療室遠隔支援加算が新設された。
「遠隔ICU」とは
「遠隔ICU」は、集中治療専門医や経験豊富な看護師が不足している医療機関と、それらの専門家が豊富にいる大学病院などの施設を連携させる遠隔医療モデルの一つだ。
セキュリティの確保されたネットワークを通じて、電子カルテや病床にいる患者の実際の画像を参照し、必要に応じてウェブ会議を行うことで診療を支援する。
支援側には遠隔ICU支援センターを設置し、医師、看護師、医師事務作業補助者が役割を分担しながらサポートを行う。
「遠隔ICU」の特徴の一つは、複数の患者を同時にケアできることだ。通常、30〜60床程度のICU患者を同時に観察し、診療介入が必要な患者を選定してアドバイスを提供する。そのため、多数の患者情報を効率的に整理する仕組みが不可欠となる。
患者情報は各病院の電子カルテから収集され、多職種で患者の状態を把握している。しかし、この過程には大きな課題がある。各病院の電子カルテシステムが多様なのだ。同一メーカーの製品であっても、施設ごとにフォーマットや記録のルールが異なる。そのため、必要な患者ケアの記録の位置が病院によってさまざまで、一貫性がない。
結果として、この情報収集作業に看護師と医師事務作業補助者の貴重な時間と労力が大量に費やされている。
この状況を改善するため、我々の施設では電子カルテ連携によるデータの自動抽出や生成AIの活用により、患者情報の整理などを試みている。更に、複数患者のモニタリングを人手に頼らず、AIを用いた見守り体制を構築することも検討している。
最終的な理想的な「遠隔ICU」の仕組みとは、ICTとAIを活用した効率的な運用モデルを構築することである。
今後の展開
2040年以降を見据えると、「遠隔ICU」は地域医療構想の重要な軸となる。今後、病院は入院患者の減少と超高齢化に伴う医療ニーズの変化に対応し、病床削減や医療機能の見直しが必要になるだろう。同時に、地域内の他の医療機能や介護との連携が急務となる。
需要の減少をカバーするため、在宅医療や予防など、入院・外来以外の新たな機能・収益源の構築も必要不可欠だ。急性期病床の需要は減少し、地域包括ケア病床や在宅医療、介護の需要が拡大する一方で、一定割合の重症患者は引き続き発生するため、ICU機能の維持は欠かせない。
このため、地域医療を担う各病院は、機能の明確化と強化を進める必要がある。大学病院のような「最後の砦」となる施設と、回復期・在宅医療を含む地域のかかりつけ医との間で、役割分担を明確にし、患者ケアの連携を強化していくことが求められる。
現状の診療報酬体系下では、多くの地域病院が経営難に陥っており、病院統合が進む地域もある。しかし、地域に密着した医療を提供するには、物理的な病院統合が難しいケースも存在する。
このような状況下においては、「遠隔ICU」を起点として病院間の連携を強化し、更に救急外来、放射線画像診断、脳卒中などICU以外の分野にも遠隔医療を拡大するなど、より効率的な遠隔医療の運用が求められることになるだろう。