勤務医のページ
今号では本紙8月20日号に引き続き、勤務医委員会(委員長:渡辺憲鳥取県医師会長)が取りまとめた答申の概要を紹介する(全文は日本医師会ホームページ「メンバーズルーム」に掲載)。 |
---|
勤務医が日本医師会に望むもの
1.日本医師会に加入しやすくする取り組み
(1)初期臨床研修の期間などに日本医師会のみ入会を認める仕組み
わが国では、地域に根差した会員が「面」として支え、それを全国展開することで、国民皆保険を基盤とした地域医療が成り立っている。
それに加え、個々の医師が「点」として参画することによって多面的な医師会活動が完成形に近付くものと考えられるが、三層全ての医師会への入会を勧奨するのはハードルが高い。
そこで、例えば「準会員」として、日本医師会にのみ入会できる制度を創設するなどして、医師資格を有する者を、広く医師会組織に包含するための方策を検討していくことも、今後必要である。
(2)勤務医が日本医師会に参加しやすい会費設定
日本医師会の会費設定について、A②(B)会員では年齢区分があるが、実際には医師となる年齢に大きな幅があるため、医籍登録からの経過年数で分けて、会費設定をしてはどうか。
また、会費額そのものについても、B会員の設定を減額し、他の多くの専門学会の会費と同等としてはいかがであろうか。
(3)医師会三層構造の見直しや、異動に伴う手続きの簡便化
医師会ごとに会費額が異なることや、入会・退会・異動手続きが紙媒体で行われていることなどが、勤務医の医師会入会を阻害している要因の一つと考えられる。
将来的には日本医師会が一括で三層分の会費を徴収し、各地域医師会へ分配する等の構図についても、多面的検討が望まれる。
更には、入退会手続きの簡素化については、会員情報システムを全国で統一化することなどにより、大きな改善が図られることが期待される。
2.勤務医・若手医師に対する働きかけ
(1)勤務医に向けた広報の充実、医師会加入のメリットの周知
勤務医の入会と医師会活動への参画を推進して組織力を強化するためには、日本医師会の活動や魅力を未入会の医師にまで届ける必要がある。
そのため、いかにして日本医師会に注目させるか、そしてホームページを閲覧させるかの工夫が急がれる。
医師の働き方改革や専門医制度など、多くの医師が関心を寄せている情報提供の方が注目されやすいため、入会のメリットや会費減免などの情報よりも優先するべきと考える。
(2)若手医師を早くから医師会活動に巻き込む取り組み
京都府医師会の「臨床研修屋根瓦塾KYOTO」は、臨床研修医がロールプレイなどを体験できる取り組みであり、若手医師ワーキンググループのメンバーが指導に当たっている。教えてもらい学ぶファーストステップ、次は講義を担当し、プレゼンテーション能力が試されるセカンドステップ、塾の講義内容、担当者それぞれをコーディネートし、まとめ上げるファイナルステップへ進む。
こうした実践活動を契機に、医師会活動の全容に触れながら医師会への理解を深めて欲しいと考えている。
また、北海道医師会では、持続的に医師会活動に参加し、若手医師の視点から意見を出してもらうため、勤務医部会の下に若手医師専門委員会を設置している。勤務医部会開催時には、若手医師に委員会委員として参加してもらい、意見を出し合ってもらっている。
また、2年ごとに発刊している「北海道医師会勤務医部会・若手医師専門委員会報告」では、若手医師専門委員会独自の視点から地域医療に関する調査を行い、その結果を掲載している他、『北海道医報』には若手医師執筆のリレーエッセイなども設けており、自分自身が執筆することで、若手医師達も『医師会報』を読むようになり、医師会が身近な存在となっている。
(3)地域医療実践の場における勤務医の主体的参画および情報発信の機会の提供
学会に所属し、自身の専門分野での研鑚(けんさん)や診療をしている勤務医にとって、医師会は、診療科や所属組織を超えての交流や、地域医療を実践する上での活動の場にもなる。勤務医が医師会に望むものは、地域医療の実践における連携・協働の場の設定や、診療科や組織を超えた研修、情報収集、懇親の機会といったことが主に考えられる。
前述の京都府医師会や北海道医師会において、勤務医は医師会という組織の中で自分達のやりたいことを自由に体現している。勤務医の立場でも主体性を持てば、医師会という組織を使って地域で、更には全国規模で自由な活動ができることを啓発していくことが重要である。
3.喫緊の医療課題解決へ向けての提言ならびに情報発信
(1)コロナ禍で浮かび上がった地域医療と勤務環境の課題へ求められる対応
コロナ禍における勤務環境の課題を検証し、解決策を模索しておくことは、今後の医師の働き方改革を進める上で、諸課題の解決に重要な示唆を与える知見となり得る。日本医師会には、院内での役割分担の実態や肉体的・精神的ストレスの軽減策など、現場の事例や意見を収集し、好事例については情報発信をするなどして、今後の医師の働き方改革を視野に入れた経験の共有化を図って頂きたい。
コロナへの対応は、地域の総力を挙げての対応が求められた。これについては、医師会が介入して迅速に有効なシステムを作り上げていた都道府県及び地域が数多く存在する。これらのシステムの成功事例を、日本医師会として総括の上、全国の医師会と情報共有することが求められる。
(2)医師の働き方改革を着実に医療現場に届けるために
①医療機関における取り組みを促進させる仕組み作り
従来、院長・部長等が時間外勤務の管理を行ってきた経緯もあり、医師の働き方改革に対する勤務医の理解が十分でないことから、より多くの勤務医に幅広く浸透させることが、日本医師会並びに都道府県医師会の責務となっている。
また、都道府県医師会が主体的に医療勤務環境改善支援センターを受託するか、あるいは、社会保険労務士が都道府県医師会に駐在することによって、病院管理者のみならず、勤務医個人が医師会へ日常的に相談できる体制を構築することも必要と考える。
②外来機能見直しにおける診療所側の体制整備
病院における救急患者の受け入れは、勤務医の業務として大きな課題であり、いわゆるコンビニ受診等が勤務医の疲弊を招いてきた。
病院ではなく、診療所へ向かう患者の流れを作り出すためにも、診療所への受診の魅力を高め、診療所へ受診したくなるような体制を整備することも重要である。
令和4年度診療報酬改定において、かかりつけ医機能を評価した診療報酬項目の見直しと、紹介受診重点病院に対するインセンティブとなる点数設定が行われた。
開業医と勤務医双方を統括する日本医師会において、この改定の意図を具現化する現実的な医療体制改革、更には、国民、医療機関双方にとって理想的な体制構築へ向けた真摯(しんし)な議論が望まれる。
(3)新専門医制度における課題
新たな専門医制度は、制度本来の目的であるプロフェッショナル・オートノミーによる専門医の質の向上、専門医認定の標準化などの制度の効果が見えにくくなっている。
こうした現状を打開するためには、本制度から医師の地域偏在対策を一旦排除し、本制度とは別に国主導で医師偏在対策についてしっかりと議論を進めつつ、新専門医制度は、専門医育成と評価に特化した制度に立ち戻るべきであろう。
4.勤務医の意見集約の強化を通して、日本医師会へ最も望むもの
勤務医が他の勤務医や開業医と相互の理解と密接な連携を深めていかなければ、わが国の医療状況の危機はより深刻化し、悪化する危険性がある。
非会員へのサービスについて疑問視する声もあるが、非会員の勤務医に医師会について知ってもらい、互いに向き合ってこそ、組織率向上ひいては組織強化が実現すると考える。まずは、この開業医中心と捉えられている日本医師会のイメージを払拭(ふっしょく)するための柔軟な発想と大胆な施策を期待したい。