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令和6年(2024年)6月5日(水) / 「日医君」だより

令和6年能登半島地震被災地の医療を支える~全国の医師会からのJMAT派遣5

◆「JMATを支えるJMAT」(調整本部ロジスティクス活動)

能登半島地震の発生からおよそ半年が経過し、日本医師会災害医療チーム(以下、JMAT)活動は現地のニーズ変化を踏まえ、5月31日を以て終了いたしました。ここで、「JMATを支えるJMAT」として、都道府県医師会によるロジスティクス活動をご紹介します。

※JMATは、医師がいることを必須としています。しかしながら、令和6年能登半島地震では、ロジスティクス担当者によるさまざまな業務が重要視されました。そこで、日本医師会として、臨時にロジスティクスチームを創設することにしました。このチームは、ロジスティクス担当者(職種不問。看護師や薬剤師など医療関係資格の保有者も含む)のみで構成します。

都道府県医師会のロジスティクス活動には、(1)チームを送り出す派遣元医師会の事務職員、(2)被災地の避難所等で活動するチームの一員、それから(3)JMATの調整本部・支部の一員の3通りがあります。

(1)は、特に中長期で継続的にチームを派遣する場合、参加者募集や関係医療機関・団体等との連携、コンタクトパーソン等の情報収集、また先発・後発のチーム同士が引き継ぎできるような日程調整が欠かせません。宿泊先や交通手段(新幹線、飛行機、レンタカー等)の手配も重要です。

(2)では、出発前の準備、車両の運転、現地の調整本部・支部到着時の統括JMATやキーパーソンとのコンタクト、ブリーフィング参加、必要な情報収集、J-SPEEDのアプリ入力をはじめ多様な業務が挙げられます。

そして、ここでは(3)の「JMATの調整本部・支部の一員」のロジスティクス活動として、今回のJMAT活動の初期段階を担った沖縄県医師会と愛知県医師会、それから継続的にロジスティクスチームを派遣された鳥取県医師会の例を取り上げます(他に「全国の医師会からのJMAT派遣4」での兵庫県医師会JMATの報告もご参照下さい)。

全国の都道府県医師会事務局職員におかれましては、この度のJMAT活動にさまざまなご協力、ご支援を頂き、心から御礼申し上げます。

1.沖縄県医師会JMATのロジスティクス活動
全国からのJMATの派遣は、1月5日の日本医師会による要請から始まりました。そのうち1月7日から派遣された沖縄県医師会チームは、石川県庁に設置したJMAT調整本部のロジスティクスが大変な状況になっていることを憂慮し、その役割を担うことを自ら申し出てくれました。この活動は、1月26日まで続きました。

以下は、沖縄県医師会事務局業務1課課長の徳村潤哉さんからのご報告です。
沖縄県医師会では、1月7日から2月2日までの27日間にわたり、JMATチーム(8陣)48名、JMAT単独ロジスティクスチーム7名の延べ55名の派遣を行いました。

JMAT沖縄には「JMAT石川県調整本部(以下、本部)」の立ち上げから本部機能の運営を行う本部業務支援と、七尾市に設置された支部業務と医療支援の要請を受けました。

本部の立ち上げでは、ロジの人数が圧倒的に不足していたことから、急遽1名の事務局職員を前倒しで派遣したことを皮切りにCSCA[Command and Control (指揮と連携).Safety (安全確保).Communication (情報収集伝達).Assessment (評価)]が確立され、難局を乗り越えました。

本部でのロジ業務は、統括医師の指示を受け、各種ミーティングへの参加、新規JMATチーム受付、ブリーフィング資料の作成・準備、クロノロジーへの記入・入力、他チーム(DMAT・DPAT等)や支部、日本医師会との調整等々、業務が多岐にわたり、限られた時間、リソース内での対応が必要となる環境下で昼夜を問わない支援活動を行ってきました。

今回の活動を踏まえて、広域災害において本部の立ち上げや運営に際し、主に感じたことを以下に示させて頂きます。

1.ロジの適切な人員配置と人材育成
ロジの人員配置に関しては、活動初期より一定期間必要な人数や配置場所等を適切に設定する必要があると感じました。その設定の下、日本医師会の指揮下に人員招集を行うことが必要と感じました。招集順(被災地医師会→近隣医師会→被災地ブロック医師会→被災地外ブロック医師会など)を設定しておくことも必要と感じました。

また、本部機能を担うロジが災害時に即座に対応できるよう、本部の設置計画や要領、活用する書式資料等を整備し、それらを基にした研修会等を通じ必要人材を育成していくことが望ましいと感じました。

2.効率的かつ効果的な情報管理
本部では、複数の機関及び組織との調整をはじめ、頻繁なメンバーの入れ替え等もあり、効率的かつ効果的な情報管理が求められます。

災害時のロジ業務では、迅速な情報収集と整理、クラウドでの安全な保管、リアルタイムな情報共有、プロジェクト管理等が欠かせません。

そのためには、普段から使い慣れているデジタルプラットフォーム(モバイル対応含む)の活用(あるいはJMATに特化した)が必要と感じます。

限られた活動期間で、全体把握が難しい状況下での資料作成や検索等が必要なため、各種資料の定型化や資料格納フォルダを予め設定しておくことが、活動の手間やタイムロスの軽減に繋がると感じました。

これらを実行することで、災害時の本部支援におけるロジの効率性と迅速性が向上し、被災地への適切な支援が期待されることと思います。

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2.愛知県医師会JMATのロジスティクス活動
沖縄県医師会チームとほぼ同時期、七尾市に設置した能登中部調整支部(当初は「七尾調整支部」)では、愛知県医師会のチームが統括業務を担うことになりました。そのため、チームの事務職である県医師会職員がロジスティクスを担当することになりました。

以下は、愛知県医師会事務局のご担当者からのご報告です。
発災直後よりJMAT派遣について愛知県でも調整し、1月5日の柵木充明会長の現地視察に続き、1月7日より同行した医師と共に公立能登総合病院内にJMAT七尾調整支部を立ち上げ、15日までの間、統括業務を行いました。

当初は何をするのかということは考える間もなく、被災地に入り、現状確認し、後続班の対応を検討する予定でおりましたが、急遽確保して頂いた公立能登総合病院の会議室の一角に七尾調整支部を立ち上げることとなりました。隣室にはDMATで活動されている方々が所狭しと情報収集や関係各所と調整されている中、机と椅子のみのゼロの状態からJMAT支部機能をどうつくっていったらいいかというところからのスタートでした。

お恥ずかしい話、専門とされている方々にはお叱りを受けるかも知れませんが、一緒に行っていた医師や看護師と異なり、クロノロ、ロジ等の用語や災害時の基本的な行動も分からず、日本医師会で行われているような研修も受けていない事務局の私達に何ができるのかという、課題に直面したことは事実です。恐らく多くの医師会の事務職員が感じる部分であると思います。

支部機能を立ち上げる任務を想定しておりませんでしたが、持参していたパソコン、プリンター、Wi-Fiを駆使し、事務作業ができる環境を整えました。またGoogle DriveやグループLINEの立ち上げなど、後のJMAT活動の基礎の部分が構築できたと思います。事務機能を構築してからは、後にクロノロに相当するものと理解し、何とか時系列の記録を残そうという一心で対応いたしました。

それでも日が進むにつれ、JMAT七尾調整支部の管轄下で活動されるJMATチームも増加し、現場での緊迫した状況(水が出ないことによる衛生状態の悪化、それに伴う新型コロナウイルスやインフルエンザなどの感染症患者の増加、医療機関におけるスタッフの疲弊など)が刻々と報告されてきました。地震により、携帯電話の基地局も被害を受けていることから通信状況が不安定のため、オンラインでの会議も難しく、JMAT七尾調整支部の管轄下で活動する全チームが参集して行われました。報告会では、状況報告のみならず、その対応方法などについて、非常に活発な議論が行われました。その報告書の作成は、深夜まで及びました。

今できることを日頃の経験を基に考え、立ち上げた支部機能ですので、後日引き継いだ兵庫県医師会様には大変ご迷惑をおかけしたかと思います。

最後になりますが、ヨコクラ病院様、兵庫県医師会様始め現地で出会った皆様には大変な状況の中、親切に教えて頂き、本当に助かりました。この場を借りてお礼申し上げます。

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3.鳥取県医師会JMATのロジスティクス活動
鳥取県医師会チームは、1月17日から3月17日までのほぼ全ての期間、派遣されました。1つの医師会からロジチームを連続して派遣されることで、ノウハウが継承され、他都道府県医師会のロジスティクスチームを含む後続チームの活動を円滑に行うことができました。

以下は、鳥取県医師会事務局次長の小林昭弘さんからのご報告です。
今回の能登半島地震でJMAT調整本部は被災地医療支援の重要な役割を果たしました。これまで鳥取県医師会が活動した東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨災害ではJMAT調整本部は設置されておらず、今回が初の設置と認識しています。鳥取県医師会がその役割の一部を担えたことは、貴重な経験となりました。

調整本部の活動はさまざまな業務を分担しながら行っていますが、派遣チームに調整本部の意向や現地の状況、必要な情報を迅速に共有し分かりやすい形で情報提供することができました。これは、調整本部を指揮した秋冨慎司先生の的確なご指示と調整本部で活動した多くの方々のご努力で体制、取り組みがブラッシュアップされていった結果だと思います。

鳥取県医師会では、渡辺憲会長と清水正人副会長(担当理事)の決断により、調整本部に職員を継続的に派遣し、小規模な県医師会で職員は13名ですが、そのうち11名が現地で活動しました。通常業務と並行しての活動でしたが、事務局職員全体で助け合い、コロナ禍に導入したリモートワークの仕組みを活用することで対応が可能となり、継続派遣が実現しました。

更に、調整本部のロジスティクス活動の業務引継書を作成するとともに随時活動状況を報告することで、後続の職員に業務内容を伝達しました。この引継書は調整本部内でも活用され、業務の継続性が保たれたと思います。

体制づくりは必要ですが、「災害時など困難な状況でやれない理由を探すのではなく、どうすればやれるかを前向きに考え、行動に移す」ことが本質だと考えます。日本は災害大国であり、いつ自らが受援側に回るか分かりません。困った時はお互い様の精神で、多少のことは犠牲にしても助けに向かう気持ちが大切です。その気持ちを役職員が行動に移せたことは「鳥取県医師会の底力」と言えるでしょう。

今回の経験を通じて職員は、「災害関連死を出さない、被災地に地域医療を取り戻す」というJMATの目的に沿って、チームとして活動するコミュニケーション能力や実践力、課題解決力、適応力など多くのことを学びました。この経験を今後のJMAT活動に活かすために課題や反省を振り返り、次回の活動への準備を進めていきます。

最後に、JMAT調整本部長の齊藤典才先生、秋冨慎司先生、現地で共に活動した日本医師会の職員の皆様には本会職員が働きやすい環境をつくって頂き、言葉に表せないほど感謝の気持ちでいっぱいです。石川県の復興と、石川県医師会の先生方が通常診療を再開し、日常を取り戻す日が一日でも早く来ることを心より祈念しています。

◆「令和6年能登半島地震被災地の医療を支える~全国の医師会からのJMAT派遣4」(兵庫県医師会JMAT報告)【日医君だよりNO.1113/R6.2.1】

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