平成12・13年度勤務医委員会答申
21世紀における勤務医のあり方(2) |
勤務医委員会は,本年3月,坪井栄孝会長に答申「21世紀における勤務医のあり方」を提出した.前号では,そのうちの「I.21世紀における医療環境の推移と変化」「II.21世紀における勤務医のあり方」について紹介したが,今号は,引き続き,「III.勤務医の生き甲斐と使命,信頼の確立」などを紹介する.
四,勤務医のキャリアパスシステムの構築
現在の医療界に,医師の臨床能力を正当に評価するシステムはない.また,臨床実績を重視したキャリアパスが不明瞭で,大多数の勤務医に,ある種の閉塞感が存在することが推定される.現在は,大学における研究業績が明確な指標となって,個人のキャリアパスに大きく影響している.その典型が,医学部教授の選考基準である.
一方で,現在の勤務医の労働市場は,病院の人事権が実質的に大学医局にあり,これが医師の労働市場を狭くし,人材とポストとのミスマッチを生じさせ,閉塞感の一因となっている.今後は,研究業績も重要な一指標ではあるが,それのみではなく,個人の臨床の場での実績,臨床能力の評価をフォーマルに記録したうえで,全国的に公開し,病院管理者はこれを基に採用,昇格などを行うキャリアパスシステムを構築することが重要である.
臨床能力の評価は,診療プロセスとアウトカムの両面から行われる必要がある.プロセスの評価に関しては,指導的医師のほかに評価を行いうる者はいないだろう.今後は,医師同士が評価し合う「ピア・レビュー」の風土を醸成していく必要がある.
勤務医が一個人としての生涯設計を考えるに当たって,仕事における充実のみならず,家庭を大切にし,趣味を持ち,生活を楽しむことを目標とすることも当然である.人生の幅を広げながら,病院勤務を終え,定年後のボランティアを含めた社会活動の継続を目指せるような過ごし方も,現役時代から心がけてゆく必要がある.
しかし,現実には,勤務医は自らの医療現場で必ずしも生き甲斐を感じているとはいい難く,いわゆる“3K”に似通った長時間の重労働で疲労し,職務に当たってきた側面も否めない.一方,開業医も「一国一城の主」として,自らの医療の形を自由に実現できていた時代から,プライマリ・ケア,病診連携など地域における役割分担のなかで役割の変化が求められており,医療における守備範囲も徐々に狭まり,固定化しつつあるのが現状であろう.
勤務医,開業医とも,個々の価値観に沿って地域医療を展開するなかで,相互の信頼関係を醸成できるよう医師会の場を大いに利用すべきであり,これらを通じて,勤務医と開業医との差異が着実に縮まりつつあることに気づくだろう.
さらに,これらの活動のなかで,勤務医が地域の開業医との連携を身近に感じながら,病院というチーム医療の現場にありながら,地域のニーズに幅広く目を向け,自らの役割,使命を再認識することにつながると期待される.
二十一世紀の勤務医像を語るには,現時点ではあまりに不透明な部分が多く,論議の焦点を定めることは困難だったが,委員会の議論の根底にあったものは,国民のための医療の質を確保することであり,そのための勤務医のあり方であった.
委員会での議論の中心は,評価と情報開示,勤務医の労働環境と今後の展望,社会変革に対する勤務医の意識改革であった.
これからは勤務医の担う業務は多岐にわたり,複雑化する.勤務医も自分自身の資質を十分に把握し,自立し,自分の進むべき道を定めるべきであり,これを可能にするには,医学教育,卒後教育の変革と充実が求められ,この作業過程には地域医療を熟知している医師会が加わるべきである.
現在,医療担当者すべてが連帯の時代に入っている.勤務医も自身のアイデンティティーを保持し,地域医療のなかで,それぞれが接点を持ち,連携すること,それを組織化することも医師会の役割である.
これからわが国は,すべての分野で大きく変貌するだろうが,医療の分野も例外ではない.勤務医の意識もこれに適応,順応していくためには大きく変わることが必要となる.
今世紀,勤務医が医療のあらゆる分野で歴史的役割を演ずることになるだろう.
勤務医委員会 |
◎ |
池田 俊彦(福岡県医理事) |
○ |
谷口 繁(岩手県医勤務医部会長) |
○ |
藤井 康宏(山口県医会長) |
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伊賀 六一(日本医療機能評価機構専務理事) |
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伊藤 正一(新潟県医理事) |
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梅園 明(栃木県医副会長) |
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斉藤 義昭(山梨県・東八代郡医理事) |
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佐野 文男(北海道医副会長) |
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中村 智(東京医科大学医会長) |
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濱田 和孝(大阪府医監事) |
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宮西 永樹(三重県医理事) |
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山本 泰次(広島県医常任理事) |
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渡辺 憲(鳥取県医理事) |
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(◎:委員長,○:副委員長)
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