日医ニュース
日医ニュース目次 第1073号(平成18年5月20日)

勤務医のページ

平成16・17年度勤務医委員会答申(その1)
「医療環境変革期における勤務医の役割」

 勤務医委員会は,昨年12月,答申「医療環境変革期における勤務医の役割」を会長に提出した.答申の概要について,2回に分けて報告する.

I 医療環境変革の流れ

 現在,医療界は,戦後六十年を経過して,かつてない大きな変革の圧力にさらされている.国民皆保険制度を堅持しつつ,公平で良質な医療を提供しようという理念とは裏腹に,厳しい経済情勢から,医療資源である診療報酬も数年来据え置かれ,さらに,公的医療保険の守備範囲を縮小しようという動きが各所に見え隠れしている.医療提供側にとっても,医療を受ける国民にとっても,より良い国民医療を維持し,発展させるための方策について,ともに真摯に考え,提言していかなければならない,緊迫した局面に差し掛かっている.
 最近の医療訴訟の増加は,国民の医療に対する信頼が揺らいできていることを如実に現しており,医療安全体制の確立,医療倫理の高揚,医師会としての自浄作用の活性化等の地道かつ着実な取り組みが求められている.

II 望ましい医療環境の変革と勤務医の役割

一,医師の資質の向上(臨床研修,生涯教育)
 新医師臨床研修制度の理念を振り返ると,
 (1)患者を全人的に診ることのできる基本的総合診療能力(知識・技術・態度)をプライマリ・ケア中心に幅広く修得すること
 (2)研修医の身分の安定と指導体制の充実
 (3)医師としての人格の涵養
 (4)内科,外科のほか,救急,小児,産科,精神,地域保健・医療の理解と実践,および医療安全対策を身に付ける,などである.
 忘れてならないのは,努力目標であった旧研修制度に対して,国民が「ノー」といった結果,必修義務となったことである.
 厚生労働省の研修医に対するアンケート調査結果を見ても,研修医は大学病院での研修に満足していない.こういった事実を,大学病院は直視すべきである.
 (1)大学の自己改革
 現在は,研究要員がいない,地域病院を守れないなどの問題もあるが,今までの大学医局が,一人の教授の下,診療,研究,教育のすべてを担うのは,もともと不可能なことで,大学はそれを放置してきた文部科学省の犠牲者ともいえる.
 一方,大学は画一的な医学博士をつくることの可否を自ら問い,真の研究,技術修得,全人的医師養成,医学教育,医局制度とは何かなど,すべてを根本から見直し,大学自身の構造改革を迅速に進めなければならない.
 (2)日医の役割
 日医は,医師の資質向上に取り組んでいるが,今後は,従来の大学医局では十分でなかった全人的医療に関して,積極的に関与していく必要がある.自浄作用では同業者への厳しい対応も国民に分かるようにしていかなければならない.
 また,大学の医師不足による地域医療の確保には,その地域全体を一つの医療機関とした考え方で,医師会の地域医療連携システムを生かして地域医療を守っていきたい.
二,医療提供体制の整備
 (1)マンパワーの充実
 医療制度改革のなかで,医療提供体制の整備・改革は,医療保険制度改革と並んで重要課題に位置付けられる.まず,マンパワーの充実をいかに図るかということである.現在の医療保険制度のなかで,各医療機関が必要かつ十分な数の医師,医療スタッフを確保することは困難であるが,患者のために真に安全で良質な医療,患者からも満足を得られる医療を提供するためには,限られた数のなかで,できるだけ優秀な人材を集めることが望まれる.各医療機関では,医療環境が大きく変わりつつある現在,医療機関としての基本的な理念や方向性を,全医療スタッフや勤務医に理解してもらうことが大きな課題である.
 (2)医師の不足,偏在の是正
 新医師臨床研修制度が始まり,大学や基幹病院などは,研修医の指導あるいは人員の不足のため,関連病院などから派遣医師を引き揚げている科もあり,地域別あるいは診療科別の医師偏在に拍車がかかっている.
 医師の需給問題については,一県一大学構想の推進等により医師の過剰が問題となり,医学部入学定員の削減が実施された経緯がある.しかし,勤務医の過重労働,小児救急問題,新医師臨床研修制度による大学への医師の引き揚げ,産科医,麻酔科医の不足などが露呈し,日医では,勤務医数は不足しているのではないかとの方向で検討を開始した.
 基本的には,医師数の絶対的な不足により,勤務医の不足,過重労働,医療安全,医師の偏在など,多くの問題を引き起こしている.今の診療報酬体系では,何ら解決することはできない.欧米に比べ,医療費は少なく,ベッド数当たりの医師や看護師の数も少なすぎる.日医病院委員会では,病院は入院診療に,診療所は外来診療に機能分化し,それにより勤務医の過重労働や医師不足は解決されるのではないか,と提言している.わが国の医療はどうあるべきかを,病院経営者も勤務医も医師会も一緒になって考えなければならない.
三,より良き医療環境の構築をめざして
 勤務医の過酷な労働環境はすでに限界を超えており,病院の中堅医師が次々に病院を離れ開業し,残った勤務医に,さらに負担がかかるという事例が全国で見られるような危機的状況に陥っている.これらの状況を改善するには,地域医療の現場で働く医師の全体数を一定数増やすことは必須である.
 昭和二十年代に免許を取得し,地域医療を支えてきた医師が引退の時期を迎えており,地域によっては医療過疎にますます拍車がかかると予想される.これらの解決のため,大学医学部の定員増も一時的には必要と思われる.すなわち,診療科,救急を含めた診療機能別の地域医療提供体制を精密に検討し,不足の大きい地域の大学医学部定員の調整を数年ごとに行ってはどうかと考える.
 その他,医学部の定員内における,いわゆる「地域枠」,都道府県医師会ドクターバンクの全国ネット化,女性医師の職場復帰への支援システムなども,整備・活用が求められる.

>>後編は6月20日号

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