医師への軌跡
医師の大先輩である大学教員の先生に、医学生がインタビューします。
東洋医学の研究を地域医療の場に還元し次の世代に伝えたい
髙山 真
東北大学病院 漢方内科 特命教授
漢方医としての歩み
奈良岡(以下、奈):先生はなぜ漢方医を目指されたのですか?
髙山(以下、髙):私は山形の出身で、実家は温泉宿を経営しています。旬の山菜に囲まれて育ち、身近には、漢方薬の材料にもなるサルノコシカケを煎じて飲むお年寄りもいました。漢方への興味の原点は、そんな生育環境にあったのかもしれません。また、地元は雪深く交通の便も悪いため、具合が悪くても病院に行かず我慢してしまう人も多く、予防医学にも関心を持つようになりました。ただ、いきなり漢方を学ぶのではなく、まずは急性期の患者さんの命を救うため、西洋医学の基礎をしっかり身につけることにしました。
循環器内科医として専門研修を終えた頃、「救急対応などにおける西洋医学の強みはよくわかった。一方で、急性期の治療を終えて落ち着いた患者さんが、不眠・食欲不振・気力低下といった不定愁訴で、何度も外来に戻ってきてしまう。何とかできないか」と思うようになりました。当時は抗不安薬や抗うつ薬しか対処法がなかったのですが、なかなかコントロールが難しい。そこで漢方に取り組もうと、東北大学に当時あった先進漢方治療医学講座の大学院生になりました。天津中医薬大学や台湾にも見学に行き、漢方や鍼灸を学びました。伝統医療を学ぶ人が世界中から集まっていて、注目度の高さに驚きましたね。
大学院修了後はドイツに渡りました。ドイツでは、慢性病に対する西洋医学の限界が広く認識されており、自然療法が盛んです。また、国際研究で自然療法の臨床効果を検証・評価する文化が根付いており、その姿勢には非常に影響を受けました。
震災を機に気付いたこと
髙:在独中、東日本大震災が起こりました。周囲からは帰国しないよう強く言われましたが、ある日ミュンヘンテレビに、不眠不休で働くかつての同僚たちの姿が映ったのです。今帰らないと一生後悔すると思い、矢も盾もたまらず帰国しました。
帰国後は東北大学の救護チームに入り、多くの体調不良の方々の治療にあたりました。例えば3月の寒い時期は、低体温の人に体を温める漢方を、気温が上がって乾燥した土砂が舞い上がりアレルギーが増えると、抗アレルギー作用のある漢方を処方しました。抗ヒスタミン剤の副作用でぼんやりして、片付けのときに怪我をする人も多かったため、副作用の少ない漢方は喜ばれましたね。痛みを訴える人が、鍼治療などで良くなった例も多くありました。この経験から、「西洋医学の限界と、それを補完する東洋医学」という考え方が、私の中でより明確になったように思います。
奈:地域医療の場で東洋医学にできることは多そうですね。
髙:はい。そのためにも、東洋医学の効果の検証は重要です。また、研究成果を地域医療に還元しつつ、下の世代に教えるという流れも重視しています。
教育の重要性を痛感したのも、震災の時期でした。当時、東北大学では臨床実習が中断してしまったため、漢方内科を回る予定だった学生については、被災地で患者さんのお話を聴いたりマッサージしたりすることを地域医療・漢方実習としました。すると、地域医療の様子を間近に見たことで、学生の理解が格段に深まったのです。それ以来、漢方内科での実習・研修や、総合地域医療研修センター*では、様々なシミュレーション教育や体験学習を重視したカリキュラムを組んでいます。
私は「漢方医になりたい」という思いはもちろんありましたが、それ以前に、もっと根本的な「こうなりたい」という動機を持ち、その実現のために必要なことをその都度選びながら、キャリアを歩んできたように思います。今後も、臨床・教育・研究の三本柱を大切に、日々励んでいくつもりです。
* 総合地域医療研修センター…東日本大震災の被災地における医療を復興・発展させる目的で、東北大学医学系研究科が設立した研修センター。被災した医療人が最先端医療・医学を学べる場を提供するほか、災害医療の専門家や震災を経験した医療人による災害医療学教育などを行っている。
髙山 真
東北大学病院 漢方内科 特命教授
1997年、宮崎医科大学医学部卒業。山形市立病院済生館にて臨床研修。山形県立新庄病院内科、石巻赤十字病院循環器科を経て、東北大学で漢方を学び始める。2010年、東北大学大学院医学系研究科医学博士課程修了、ミュンヘン大学麻酔科ペインクリニックへ留学。日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本循環器学会循環器専門医、日本東洋医学会漢方専門医・指導医。
奈良岡 祐子
東北大学医学部 6年
髙山先生はインタビュー中も、私の顔を見ただけで漢方の「証」を言い当ててしまわれるので驚きました(笑)。「漢方で慢性副鼻腔炎やケロイドがきれいに治った」などのお話を聴き、漢方の奥深さを知ることができました。将来は患者さんを中心に考えて、東洋医学も含めた様々なアプローチを選択できる医師になりたいです。
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- 医師への軌跡:髙山 真先生
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