医の倫理の基礎知識 2018年版
【医師と患者】B-3.小児の場合のインフォームド・コンセント
丸山 英二(慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科特任教授)
診療における患者や、医学研究(治験を含む)における対象者(被験者)が、未成年者である場合、本人に、当該診療や研究について判断する能力があるかどうかが問題になる。本人が必要とする検査や治療など、本人のために行われる診療行為の場合には、本人に判断能力がなければ、親権者(親権者がいない場合には、未成年後見人)に対して説明し、親権者から同意を得ることで当該行為を行うことができる。また、本人に判断能力が認められる場合には、本人に対する説明、本人からの同意で、当該行為を行うことができる(そのような場合でも、本人と親権者の意見が対立しているような例外的な場合でない限り、親権者にも説明し、了解を得ておくことが望ましい)。
親権者が、医療機関の必要と考える医療を子に与えない場合、医療ネグレクトの問題が生じる。そのような場合、医療機関は、親権者に子を監護させることが不適当として、児童相談所に通告しなければならない(そのような場合に児童相談所に通告することは、医療者の守秘義務違反や個人情報保護法等の違反にはならない)。具体的な医療の必要性を判断するに当たっては、医療機関の倫理委員会の判断を求めることが望ましい。通告を受けて児童相談所長は、①児童福祉法第33条第1項の一時保護として、必要な医療に対する同意を与えること、②民法834条の2に基づいて、親権者について親権停止の審判を請求し、必要な医療に対する同意を未成年後見人や親権代行者(児童相談所長などがなる)が与えることを求めること、③②の請求に係る審判を待つ余裕がない場合に、②の請求に併せて、審判が得られるまで、親権者の職務執行を停止し、職務代行者(児童相談所長などがなる)が必要な医療に同意することを許容するよう裁判所に求めること、などができる。
他方、医学研究の場合、一次的には、本人の健康の維持回復ではなく、将来の患者のための診療の改善や、広く医学の発展を目的としているため、インフォームド・コンセントの要件は医療の場合よりも厳格になる。以下では、人を対象とする研究で、遺伝子解析研究や再生医療研究など特別なルールが適用されるものを除いた研究に適用される「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(2014年12月に文部科学省・厚生労働省が制定、2017年2月改訂)および同指針のガイダンス(2017年5月最終改訂)に基づいて解説する。
小児を被験者とする医学研究を実施するには、第1に、小児を対象者とすることが必要である理由を研究計画書に記載することが求められる。ガイダンスによると、この要件が満たされるのは、基本的に、対象者とされる集団(たとえば、乳幼児)に主としてみられる特有の事象に係る研究に限られることになる。
第2に、本人を学齢ないし年齢で分け、中学修了または16歳以上の者を対象者とする場合には、当該研究について本人に判断能力が認められれば、本人と親権者の双方からインフォームド・コンセントを得ることが求められる。中学修了または16歳以上であっても、本人に研究について判断能力が認められない場合、および、本人が中学修了前または16歳未満の場合には、親権者からインフォームド・コンセントを得ることが求められる。この場合にも、本人の理解力に応じた分かりやすい言葉で説明をしたうえで、当該研究の実施について理解と了解(インフォームド・アセント)を得ることが求められる。
本人が未成年者の場合には、原則として、親権者からの同意が必要であるが、研究に侵襲性がない場合には、倫理審査委員会の承認を得て、本人が中学修了または16歳以上で判断能力がある場合に、(親権者が研究実施を拒否しない限り)本人のインフォームド・コンセントのみで、その者を対象とする研究が実施できる。ただし、親権者に拒否の機会を保証するため、当該研究の実施について情報公開することが必要である。
(平成30年8月31日掲載)
目次
【医師の基本的責務】
【医師と患者】
【終末期医療】
【生殖医療】
【遺伝子をめぐる課題】
【医師とその他の医療関係者】
【医師と社会】
【人を対象とする研究】