医師のみなさまへ

医の倫理の基礎知識 2018年版
【医師と社会】G-11.LGBTの患者に対する医師の対応

棚村 政行(早稲田大学法学学術院教授)


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 LGBTとは、女性同性愛者(Lesbian)、男性同性愛者(Gay)、両性愛者(Bisexual)、性自認を異にする者(Transsexual or Transgender)の頭文字をとった略称である。LGBTという言葉は、性の多様性と性的アイデンティティの多元性を重くみるものであり、性的少数者とか、ジェンダー・マイノリティ(Gender Minority)と同義で使用されることも多い。しかし、最近では、LGBTも、生物学的な性(体の性)と性自認(心の性)と好きになる相手(恋愛対象・性的指向)などの組み合わせで、多様なパターンがあるにもかかわらず、これを上手く言い表せていないとし、SOGI(Sexual Orientation. Gender Identity)"ソギ"と表現することもある。

 2015年4月に、電通ダイバーシティ・ラボが全国の約7万人を対象に行ったインターネット調査の結果では、LGBT層に該当する人の割合が3年前の5.2%から、7.6%へと2.4ポイントも増加した。この調査では、セクシュアリティを「身体の性別」「心の性別」「好きになる相手・恋愛対象の相手の性別」の3つの組み合わせで分類し、電通独自の「セクシュアリティマップ」を元にLGBT層を析出したものであった。日本でも、かなり多くのセクシュアル・マイノリティ、ジェンダー・マイノリティの人々がいることが明らかになってきた。

 それでは、医療の現場で、LGBTの人々はどのような行動をとり、医師はこれに対してどのように向き合えばよいのであろうか。

 まず第一に必要とされることは、LGBTに対する理解や受容の姿勢を示すことであろう。患者としては、自分の身体・性別・セクシュアリティなど自己の生存に関わる根本的な部分に重大で深刻な悩みを抱えている。そこで、医師など医療従事者としては、医療機関を訪れようとするLGBTの患者の不安や負担をできるだけ軽減するために、待合室や診察室などに、LGBTに関連するポスターや冊子・書籍などを並べて置き、みなさんのお手伝いをしたいという積極的メッセージを表すことが望まれる。

 第二に、医師は、病状の説明、治療方針や治療の選択などインフォームド・コンセントに留意するだけでなく、LGBTの患者の多様な性のあり方や生き方にも十分な理解をしたうえで、その特有の悩みやセクシュアリティについても丁寧に寄り添って話を聴いてあげることも必要である。性別適合手術は基本的には、内外性器に関わる重大な手術であるため、手術の範囲および方法の選択、その効果や限界・リスクについて十分な説明と本人の納得づくの同意が必要である。特に、本人が望む限り、信頼できるパートナーや友人に対しても、丁寧に説明する機会をもってあげることも必要であろう。

 第三に、リスクやハードルの高い医療環境への理解も必要である。たとえば、トランス・ジェンダーの人々のなかには、インターネットで購入したホルモン剤を自己責任で服用したり、実施施設と専門医が少ないため、斡旋業者の仲介で海外での性別適合手術を受けるなどのリスクを冒す人々も少なくない。しかし、安心で安全、かつ専門性の高い医療につながらなかった背景や要因をも十分に理解したうえで、患者が具体的にどのようなニーズや状況にあるのかを的確に聞き取り、できる限り安価でリスクの低い行動が取れるよう必要な情報提供や支援を心掛けることも望まれよう。

 第四に、LGBTの患者は、思春期ごろから強い不安感・閉塞感・罪悪感などに苛まれて4割以上深刻なメンタルな問題を抱えているというアンケート結果もあり、自尊感情が低くなったり、自己肯定感をもてずにいる人も多い。リストカットや自殺企図、薬物やアルコール依存症などに陥る人も少なくない。医師としては、是非、そのような、苦しんできた経緯や背後にある社会の不具合や誤解・偏見・差別などに目を向けてあげて優しくこれを受け止めるようにしてほしいものだ。

 第五に、LGBTの人々は、ふつうの人でも相談しにくい性生活や性感染症などプライバシーにわたる話題に敏感であり、この話題を避ける傾向も強い。医師としては、患者のプライバシーやセンシティブな情報を扱う自覚と責任感をもち、できる限りプライバシーが守られる環境や条件を整えたうえで、患者が率直かつ真摯にこのような話題についても話ができるように最大限の配慮をすべきであろう。

参考文献

1)株式会社電通ダイバーシティ・ラボ:LGBT調査.2015.
http://www.dentsu.co.jp/news/release/pdf-cms/2015041-0423.pdf
2)NHK:LGBT当事者アンケート調査.
http://www.nhk.or.jp/d-navi/link/lgbt/index.html
3)棚村政行,中川重徳編:同性パートナーシップ制度―世界の動向・日本の自治体における導入の実際と展望.日本加除出版,東京,2016.
4)谷口洋幸,綾部六郎,池田弘乃編:セクシュアリティと法―身体・社会・言説との交錯.法律文化社,京都、2017.
5)二宮周平編:性のあり方の多様性.日本評論社、2017年
6)LGBT支援法律家ネットワーク出版プロジェクト編:セクシュアル・マイノリティQ&A.弘文堂,東京,2016.

(平成30年8月31日掲載)

目次

【医師の基本的責務】

【医師と患者】

【終末期医療】

【生殖医療】

【遺伝子をめぐる課題】

【医師とその他の医療関係者】

【医師と社会】

【人を対象とする研究】

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