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医の倫理の基礎知識 2018年版
【医師とその他の医療関係者】F-2.非医師の医療行為とタスク・シフティング

釜萢 敏(日本医師会常任理事)


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  医師と多職種との役割分担・連携、チーム医療の推進にかかる議論が、厚生労働省の検討会でスタートしてから10年近くが経過した。医療の高度化・複雑化に加え、患者の高齢化やニーズが多様化するなかで、きめ細かな対応を行うためには、今後より一層、チーム医療を推進していく必要がある。高い専門性を持つ医療関係職種が連携し、適切に補完し合うことがチーム医療の推進であり、患者への良質な医療の提供につながる。

 一方で、医療関係職種へのタスク・シェアリング、タスク・シフティングは、医師の業務負担軽減と切り離せない問題でもある。昨今では「働き方改革」とも関連して議論されている。

1.看護師の特定行為研修制度
 チーム医療の中でも、特に多様な職種との関わりが多い看護師の業務については、さまざまな議論を経て、平成27年10月に「特定行為にかかる看護師の研修制度」がスタートした。

 本制度は、研修を修了した看護師が、医師によりあらかじめ指示された手順書によって、看護師が患者の状況を判断して特定行為を実施するものであるが、「診療の補助」として行うことに変わりはない。一部の現場では行われてきたことを、より医療安全に配慮し、知識・技術を高めて行えるよう研修制度として整備したものといえる。

 厚生労働省は、本制度を、在宅医療等を支える看護師を育てる制度として位置付けている。今後、在宅医療をさらに推進していくなかで、たとえば「脱水症状に対する輸液による補正」を訪問看護師がより迅速に行うなど、制度の活用が期待されるところである。

 手順書により指示を出す医師は、看護師の能力を的確に把握していることが前提となる。一方、看護師は特定行為を行うべきかどうかを見極める能力が問われる。特定行為の危険性を正しく理解し、どのような場合に何が起こり得るのかを学ぶことによって、自身では特定行為を実施せず直ちに医師に連絡するという選択も想定して、判断できるようになることが最も重要である。

2.診療看護師、フィジシャン・アシスタントの議論
 一方、平成28~29年に行われた「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」では、「診療看護師の養成」や「フィジシャン・アシスタント(PA)の創設」などが提言された。

 同報告書では、「研修制度の対象となる医行為について、安全性と効率性を踏まえながら拡大し、このような業務を担う能力を持つ人材(例えば『診療看護師』(仮称))を養成していく必要がある」としているが、特定行為研修制度は新たな資格を与えるものではなく、その趣旨からしても、米国等における「診療看護師」につながるものではない。

 また、簡単な診断や処方、外科手術の助手、術後管理などを行うPAの創設を提言し、「業務の具体的内容は、学会等が中心となってガイドライン等の検討を行うことが考えられる」としている。しかし、このような「簡単な診断や処方」等を行うPAは、もはや「診療の補助」ではなく、医師法17条に規定する医業を行うものである。諸外国では医師偏在・過重労働対策のなかで、代替労働力の確保策としてPAが創設・拡大された経緯があるとしているが、国民が等しく医療を享受できる日本の国民皆保険のなかで、こうした制度がはたして受け入れられるだろうか。医療の質と安全性をさらに高めていくことが求められているなかで、国民が望む医療提供体制とは大きく乖離した方向性と言わざるを得ない。

 さらに、新たな資格制度の創設を議論する際の論点として、以下の点についても考える必要がある。

 ①資格制度を創設してから、実際に現場で活躍する人材が輩出されるまでには相当の年数がかかる。

 ②18歳人口が減少する中で、医療関係職種にどれだけの人材を確保できるか(他の産業への影響も含めて日本全体で考える必要がある)。

 ③年齢や体力面で、周術期の業務などが難しくなった場合の対応(看護師であれば、周術期に限らず、さまざまな業務を行うことができる)。

 以上の点から、日本においては、新たな資格制度を創設するのではなく、特定行為研修制度を活用することが現実的と考える。特定行為研修制度の普及のためには、医療現場の理解と、看護師が研修を受けやすい体制の整備が不可欠である。

 最後に、世界保健機関(WHO)は、医療人材不足を部分的に解決する手段としてタスクシフィティングを提唱したが、世界医師会(WMA)は安易に適用するべきではないとし、アジア大洋州医師会連合(CMAAO)も「医療人員不足の最終的な解決策としないこと」「業務移譲は技術領域に限定し、診断および処方等の知識集約的業務に拡大しないこと」「政府はタスクシフィティングを医療費削減の方法と見なさないこと」等を含む東京声明(2011年)を採択していることを付しておく。

(平成30年8月31日掲載)

目次

【医師の基本的責務】

【医師と患者】

【終末期医療】

【生殖医療】

【遺伝子をめぐる課題】

【医師とその他の医療関係者】

【医師と社会】

【人を対象とする研究】

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