医の倫理の基礎知識 2018年版
【人を対象とする研究】H-11.臨床研究における利益相反(COI)
村田 真一(兼子・岩松法律事務所・弁護士)
利益相反(Conflict of Interest;COI)とは、一般的には、ある行為が、一方の利益になると同時に、他方の不利益になるような行為をいう。法律的には、さまざまな利益相反行為が禁止ないし制限されているが、医療との関係では、臨床研究における利益相反行為が重要である。臨床研究はヒトを対象とするため、被験者の生命、安全、人権を守るという観点から実施されなければならないと同時に、医師側は、臨床研究の実施において、資金提供者等との金銭的なかかわりをもつ場面が多いからである。
2013年の世界医師会フォルタレザ総会(ブラジル)において改訂されたヘルシンキ宣言(人間を対象とする医学研究の倫理的原則)によれば、研究計画書は、「資金提供、スポンサー、研究組織とのかかわり、起こり得る利益相反、被験者に対する報奨ならびに研究参加の結果として損害を受けた被験者の治療および/または補償の条項に関する情報を含むべきである」とされている(22条第2文)。これにより、医学研究実施のための資金提供者等との経済的なかかわり等を記載した申告書を実施計画書とともに当該施設の研究倫理審査委員会に提出し承認を得ることが求められる。
また、同宣言は、インフォームド・コンセントにおいて、「それぞれの被験者候補は、目的、方法、資金源、起こり得る利益相反、その他研究に関するすべての面について十分に説明されなければならない」と規定し(26条第1文)、被験者から、研究参加についての同意を得る際に、起こり得る利益相反を明らかにすることを求めている。
さらに、同宣言は、研究結果の刊行と普及に関し、「すべての研究者、著者、スポンサー、編集者および発行者は、研究結果の刊行と普及に倫理的責務を負っている」とした上で、「資金源、組織との関わりおよび利益相反が、刊行物の中には明示されなければならない。この宣言の原則に反する研究報告は、刊行のために受理されるべきではない。」と規定し(36条)、学術機関を含むすべての刊行に関与する者が、利益相反について明示することを求めている。
わが国では、厚生労働省が、厚生労働科学研究に関し、「厚生労働科学研究における利益相反(Conflict of Interest;COI)の管理に関する指針」(平成29年2月23日一部改正)を公表している。同指針では、研究者が所属する機関の長に対し、当該機関におけるCOIの管理に関する規定の策定や当該機関における研究者のCOIを審査し、適当な管理措置について検討するための委員会の設置等が求められている。
また、文部科学省と厚生労働省は、人を対象とする医学系研究の実施に当たり、すべての関係者が遵守すべき事項につき、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を定めている(平成26年12月22日制定、平成29年2月28日一部改正)。同指針では、研究計画書に、「研究の資金源等、研究機関の研究に係る利益相反及び個人の収益等、研究者等の研究に係る利益相反に関する状況」や「試料・情報の収集・分譲の資金源等、試料・情報の収集・分譲を行う機関の収集・分譲に係る利益相反及び個人の収益等、研究者等の収集・分譲に係る利益相反に関する状況」を記載すべきものとされ、倫理審査委員会の役割・責務として、「研究機関及び研究者等の利益相反に関する情報」も含めて中立的かつ公正に審査を行うこととされている。インフォームド・コンセントを受ける際に研究対象者に対し説明すべき事項としては、「研究の資金源等、研究機関の研究に係る利益相反及び個人の収益等、研究者等の研究に係る利益相反に関する状況」が挙げられている。加えて、研究の信頼性確保のため、研究者等に、利益相反に関する状況を研究責任者へ報告し、研究計画書に記載することを求めている。
さらに、日本医学会が「医学研究のCOIマネージメントに関するガイドライン」(平成27年3月一部改訂)を定めているほか、国立大学法人等の各研究機関もそれぞれの利益相反に関するガイドラインを定めている。現在では各学会では理事などの役員のCOIについて自己申告、また研究発表や講演では演者のCOIを明示することが行われている。
(平成30年8月31日掲載)
目次
【医師の基本的責務】
【医師と患者】
【終末期医療】
【生殖医療】
【遺伝子をめぐる課題】
【医師とその他の医療関係者】
【医師と社会】
【人を対象とする研究】